北海道に焼尻(やぎしり)というところがあります。
私はこれまで北海道といえば札幌旅行が中心で、あまりこちらの方を訪れたことがなかったのですが、とてもいいところで気に入りました。
この島は、一番高いところで60メートルしかありません。
そこに立つと全島が見渡せます。
私の行ったときは、馬の姿が3頭見えていました。
それで全部だということでした。
この高台が島のグランドで、運動会というと漁はもちろんいっさいの仕事を休んで、島じゅうの人が家をからにして、ここに集まって年に一度の全島の大饗宴をひらくそうです。
島じゅうが家をあけっぱなしにしても、かつて物を盗まれたということがないそうです。
事件らしい事件などもありません。
昔、明治時代に女出入りのことから、お坊さんが一人殺されたことがあったそうです。
そのときお坊さんがお寺の庭にある池のまわりを、七遍廻って逃げたということが唯一の犯罪で、それが昨日あった事件のように島に伝わっています。
島に限らず、漁村の女たちは実によく働きます。
男は海の上の仕事や、不平やつきあいや酒やで手がいっぱいですから、沖から男たちのとって来た魚の始末や、延縄の処理から、濡れた網を乾場に持って行って乾したり、つくろったり・・・
明日の男たちの海の仕事が、すぐに取りかかれるようにしたり、魚を市場に運んで行くのも彼女たちです。
また、子供どもにギャアギャアせがまれるのも彼女たちであれば、亭主のムシャクシャのかんしゃく玉を、全身で受けとめるのも彼女たちです。
出稼ぎに行った若い者が戻って来て失業保険で遊んでいるときでも(働くと失業保険がもらえなくなる)、重い石を背負ったり、モッコをかついで護岸工事で働くのも彼女たち。
・・・とても女性の手などと思えないゴツゴツした手であり、逞しい肉体であり、それは永い間荒い北風に吹かれながら、岩の間に根をはった、この島の水松のようです。